nekuradjです。
今回は「Beef(ビーフ)」という、ヒップホップの文化には欠かせない流儀について話していこうと思います。
ヒップホップというものを知っている人からすれば当たり前の文化ですが、知らない人にとってみれば「なぜそんな文化が存在するのか」疑問に思う人も少なくないでしょう。
そもそもビーフとは一体なんなのか?何を意味するのか。ビーフが起こるとどうなるのかなど、ヒップホップ初心者向けになるべく簡単にまとめていきたいと思います。
Beef(ビーフ)の意味と語源
以前ヒップホップ用語をまとめた記事でも紹介しましたが、Beef(ビーフ)とは「喧嘩」や「揉め事」を意味する言葉として使われます。といってもビーフは殴る蹴るの喧嘩ではなく、言葉で相手をディスりあう(けなし合う)事をビーフと言うのが一般的です。その中でも特に注目されるのはラッパー同士のビーフです。
ヒップホップ界隈における「誰か」と「誰か」がラップの音源で相手をディスりあっているとか。とあるライブでラッパーが他のラッパーの事をディスっていて、それに答えるかのように後日ディスられたラッパーがまたディスってきた相手をディスり返す。など、、、ヒップホップについて何も知らない人たちからすると、なぜライブや音源まで出して相手をディスるのか。理解に苦しむところがあるかもしれません。ただこれが他の音楽ジャンルには無い、貴重で重要な文化だという事をこの記事でお伝えできればと思います。
そもそも「揉め事」のことをなぜビーフと呼ぶのか。その語源は1984年にアメリカのファーストフードチェーンの「Wendy’s(ウェンディーズ)」という企業が宣伝CMとして公開した映像から来ているいわれております。
このCMで他社のハンバーガーより牛肉のパテの量が多いことをアピールするため、CM中にお婆ちゃんが他社のハンバーガーのパテを見て「Where’s the beef?(肉はどこ?)」と皮肉ったセリフを言い、それがキャッチフレーズとなり、ハンバーガーショップのけなし合う様をそのまま引用して揉め事を「Beef(ビーフ)」と呼ぶようになったと言われております。
ビーフを理解するための説明
言葉の由来は分かった。けどビーフはなぜ存在しヒップホップファンの間で盛り上がってしまうのか。その疑問は残ったままですよね。これってヒップホップにハマってない人たちからすると、なかなか受け入れがたい文化だったりするんですよね。筆者もどう説明すればヒップホップを知らない人にもハマるのか何度も考えた事があります。けどこれが結構難しいんですよね・・・。そもそもビーフを簡単にわかりやすく伝えられれば、もうすでに多くの人はヒップホップを受け入れられて盛り上がっているハズですよね。笑
ヒップホップに関する書籍や、有名なラッパーのインタビューなんか見ていると、よく例えで出てくるのは「ヒップホップにおけるビーフはプロレスだ」とか「ビーフ(のラップ)はスポーツだ」なんて言われたりします。
プロレスに置き換えて考えると、これも格闘技に詳しくない人からすれば「痛そう」とか「なんで技をわざと受けるの?」とか思ったりするわけですよね。コーナーポスト最上段に上がって、まさにこれからボディプレスするであろう時に相手はリングに仰向けになってそれを待っているシーンがあるわけですよね。
ボディプレス
出典:daily.co.jp
プロレス好きな人が見ていたら反感を買うかもしれませんが、いわゆる格闘技って「見世物」の世界から始まっているわけですよね。苦手な人もいると思いますが、人間っていうのはこういうヒリヒリした緊張感って結構好きな生き物なんですよね。
ボクシングの世界だって1発KOも盛り上がるかもしれませんが、打ち合った結果カウンター食らわしてKOした方が盛り上がりますよね。柔道にしたって寝技や絞め技で勝つより豪快に背負い投げで1本とった方が盛り上がりませんか?つまりは観客が何を求めているかって、その選手のクリティカルな技が繰り出される瞬間をハラハラしながら待っているわけです。
ここでラッパーのビーフを同じように考えると、相手にあるフレーズでディスられた時にそのフレーズに対して韻を上手く踏んで面白く的を得たアンサーをすると、見ている客は「やべー!」ってなって盛り上がるわけです。観客はそのディスり合いの中に、エンターテインメントを求めているからこそ盛り上がるんです。
あと「ヒップホップはスポーツと似ている」とかっていう人もいますが、これも考え方によっては分かる気がします。誰が定義したわけではありませんし、ヒップホップは誰が自由にやっても問題はないんですが、なんとなく暗黙のルールみたいなものがあったりするんですよね。
スポーツにもルールがありますよね。サッカーは手で触れてはいけないからこそ足だけで生まれるスーパープレイが飛び出したり、バスケットもボールを持って歩いちゃいけないからこそのスーパープレイがあったり、、、
同じようにラップにも、最低限ケツで韻を踏むことや、内容に起承転結があったりと、それなりにみんなが自然と意識しているルールってものがあるわけで、そのルールをというはみ出てはいけない枠があるからこそ、そこから生まれる衝撃的なパンチラインが飛び出したりするわけです。なんとなくわかりますかね?
そのビーフの流れを一般の人にも受け入れやすいようにしたのが、フリースタイルラップでモンスターとバトルして勝ち進んでいくという構成の番組で有名な「フリースタイルダンジョン」でしょう。最近はディスとか関係なしにサイファー(路上で輪になってフリースタイルラップする事を)している人たちが巷で増えてきておりますが、この風潮も元はビーフの文化が産んだものだと筆者は考えます。
もちろんビーフになっている当事者たちは相手に納得がいかなくてディスるところから始まるわけですが、ここでラップのスキルを見せつけたり面白いアンサーを返せたりすることで、ファンを増やすチャンスにもなり、ある意味プロモーションにもなったりするわけです。
日本で有名なビーフ音源
ここからは実際に日本で起こったビーフを紹介していきたいと思います。海外のビーフを取り上げても良かったんですが、日本語の方がスッと入ってくると思ったので、今回は日本のビーフを紹介します。
DEV LARGE vs K DUB SHINE
おそらく日本で一番有名なのはこの2人のビーフでしょう。このビーフは2004年にインターネット上で突如繰り広げられました。
DEV LARGE(from BUDDHA BRAND)
出典:iflyer.tv
K DUB SHINE(from キングギドラ)
2004年6月、インターネット上に突如K DUB SHINEを痛烈にディスした曲がアップされました。冒頭3分ほどはアカペラでのディス。そのあとから曲が始まります。ラップの仕方もアメリカで有名なディスソング「New York, New York」と「LA, LA」を元ネタにしているが特徴的です。最初は発信者が不明でしたがラップの声がDEV LARGEに似ていることから、ネット上がざわつき始めます。
この曲がアップされた数日後、DEV LARGEが出演したラジオ番組内で「Ultimate Love Song」と題してこの曲がオンエアされ、やはりDEV LARGE本人のものだったことが判明します。
これを受けK DUB SHINEも1週間後に「1 THREE SOME」という曲をネット上にアップし応生します。
K DUB SHINEはちょうどリリースを控えていた自身のアルバム「理由」のプロモーションも交えてこのアンサーソングを発表しました。韻を踏みまくっておりフックではDEV LARGEの名前を使ってあいうえお作文でディスしているのも印象的です。
DEV LARGEは「1THREE SOME」がアップされた2日後すぐに新たなアンサーソング「拝啓ケイダブ様」をネット上にアップします。
冒頭はK DUB SHINEの「1 THREE SOME」にそのまま上からラップを被せてディスします。その後「これは序章。ちょっとふざけちゃったけど、ここからが本当のパート2だ。」と「Ultimate Love Song Pt.2」が始まります。
曲の長さや相手へのマウントの取り方などはDEV LARGEに軍配が上がりそうですが、K DUB SHINEのアンサーも2分半たらずでわかりやすく韻を踏みまくってディスしているところなんかも十分楽しめます。この後K DUB SHINEからの返答は特になく、このビーフは終息することになります。
いかがだったでしょうか。ディスやビーフというものを知らなかった人や、ビーフの文化に偏見を持っていた人が、少しでもビーフの面白さだったり重要性が伝わればいいなと思い書かせてもらいました。日本はもちろん海外でもいろいろなところでビーフは勃発しており、それがまた面白いネタが多かったりするので、また機会があればビーフ特集をしてみたいと思います。
それでは今回はこのへんで。
最後までご覧いただきありがとうございました。