ここ最近SNS上で物凄い勢いでシェアされている「sai no kawara」というラップの動画。
この5分間の動画にはいくつもの暗号化されたメッセージと、ラップするcrystal-zさんの実体験を元にした非常に残酷な現実に苦悩するリリックが印象的な1曲となってます。
筆者はこの動画の映像と音源を聴いて、正直ゾッとする感覚さえ覚えました。
SNS上でも、YouTubeのコメント欄にも皆さん書かれてますが
sai no kawara / crystal-z
動画を見終わったら読んで下さい
動画を見終わった方で2018年から2019年に報道され世間を騒がせた「あの事件」の記憶が微かにでも残っている方がいれば、おそらく動画を見終わる頃にはゾッとする感覚を覚えるのではないでしょうか。あまりに衝撃の結末だったことが分かると思います。
この動画と音源は、ただの流行りのlo-fiに乗せたヒップホップの作品ではなく、医学部入試で性別や年齢差別により試験を不正に不合格にされた被害者の男性が順天堂大学を提訴するまでのリアルを綴ったラップなんです。
そしてこの曲と映像を作ったcrystal-zさんこそが、その不正を受けた男性本人だったのです。
順天堂大も入試不正 言い訳の非常識さに驚く
出典:mainichi.jp
このニュース、当時見た時は「浪人生や女性受験者に対してあまりに悲惨すぎる」と心苦しく見ていた記憶があります。浪人生や女性受験生のこれまでの努力の背景を想像すると非常にもどかしい気持ちになったのを覚えてます。
リリックの内容/ストーリー
流行りのCilledCowを思わせる映像と、lo-fi特有であるエレクトリックピアノの心地良いメロディのイントロで始まるこの曲。主人公は先述したcrystal-zという、東京でMCとして活動していた男性で、32歳でヒップホップの道を離れ「医学の道」を目指すという内容です。
ラップグループとして徐々に音楽活動に手応えを感じながらも、他のメンバーには家族ができ、それぞれが仕事・家族・音楽の両立が難しくなっていく中、当時シェアハウスをしていた部屋も解約し、メンバーはそれぞれ別の道を歩むようになりグループは解散。
目指してみようか 医学の道
それは茨の道 だけど欲しいのは日々
何かに打ち込めるゆるぎない意思
crystal-zさん本人も先の現実を見つめ、医学の勉強をして大学受験を目指すことを決意します。
32歳で改めて勉強に打ち込み「医学の道」を目指す決意をするというエピソードにすでに感動を覚え応援したくなる気持ちが湧きます。筆者は今年30歳になりますが、正直自分もこの歳になって改めてもう一度建築関係や電気系の勉強をしたいと思うことがあります。なので今の自分と重ねてしまうところがあり、より感情移入しやすいです。30歳を過ぎるとこういう感覚ってみんな出てくるものなんでしょうかね・・・。
決意後はバイトでしていた塾の講師も辞めて、いよいよ本格的に勉強に打ち込み始めます。
塗り替えていく 先月の自己ベスト
進む今日も 明日も 明後日も日々前に
知識蓄えた 寿命と引き換えに
開館から閉館 図書館の最上階
毎晩救われた 彼女の晩御飯
着実に成績を伸ばす日々とその背景にある努力と彼女の支え。「知識蓄えた 寿命と引き換えに」ここ個人的にパンチラインですね。
そして1バース目が終わりフックがきます。
天才じゃなくていいから
堂々巡り巡り繰り返し
東京
偉大(医大)なこの町
順調じゃなくていいから
天才じゃなくていいから
堂々巡り巡り繰り返し
東京じゃ春も来ないし
しっかりここに不正を働いた順天堂大学と東京医科大学の名前が頭文字にきてます。
1バース目は模試の成績も問題なし。未来に希望を抱き着実にステップアップしている描写があり、とても聴いてて気持ちの良い内容になってます。しかし問題は2バース目から。
だけど まったく 結果は出ず
目標の東京の学校は全部
その年も その次の年も全滅
ペーパーができても 越えられない面接
模試の結果はいつも A判定
でも合格発表では 「え、なんで?」
年齢のハンデ? 夢にさえ思わねえ
ゴールテープごと ずらされるなんて
東京にこだわれば 確実に落ちる
地方を受ければ 彼女とは離れる
身も心も引き裂く 究極の選択
俺は後者を選んで 飛行機に乗り込んだ
2年連続で東京の大学は全て「不合格通知」ここから異変に気付き始めますが、どうしても夢を諦めきれないcrystal-zさんは地方の大学を受験することを選び、それと引き換えに彼女とは離れて住む決断をします。映画を観ているような展開ですよね・・。
そしていよいよ努力が実る時がきます。
俺の番号があった 間違いじゃない
シャワー浴びてた 彼女にプロポーズをして
びしょ濡れのまま 泣きながら抱き合った
友達に両親 そしてこの街に
愛すべき人たちと 過ごせた日々に
遠くてもたまに 来てよ遊びに
感謝を残し 訪れた旅立ちへ…
地方の大学に無事合格し、ようやく自分にも春が訪れたことを喜び、家族、彼女、友人たちに感謝を伝え、地方の進学に旅立つのでした。ここでフックが再び歌われ、そのままアウトロへ。
衝撃のラスト
既に話した通りこの曲はただのヒップホップの曲ではなく、受験の合否を不正に操作した大学側を提訴したcrystal-zさんの苦悩のメッセージを込めた曲であり、それが最後に思いも寄らない形でこの動画は幕を閉じます。
4:15頃から窓台に立てかけられたスマホらしきものから映像が映し出され、女性キャスターの声がサンプリングされております。
この報道のサンプリングが流れた後、アニメーション映像が突然消え、次の瞬間、スマホでなにやらカバンの中から大学側とcrystal-zさん本人と思われる人たちの会話を録音した映像に切り替わります。
以下最後に流れる大学側のコメント
大学側の言い逃れできない状況を映し出してます。全く何を言いたいのか分かりません。申し訳ないと言いつつもこぞって「これは不正ではない」という始末。こんな不正が過去10年以上も続けられていたなんて信じられません。
現在、西日本の大学医学部に進学したcrystal-zさん。妻との別居を余儀なくされ、受験料や別居に伴って発生した費用のほか、社会的名誉や自尊心を傷つけられたとして、順天堂大学側に慰謝料(数千万円の賠償)を求める訴訟を東京地裁に起こすと報道されております。
以下、朝日新聞の記事リンク
この曲の「イースターエッグ」効果
実はここで紹介仕切れてないイースターエッグ効果が曲中や映像の中にたくさん散りばめられていると言われております。
「イースターエッグ」とは、コンピューターにおいてソフトウェアに隠されたメッセージを表す言葉で、すなわちこの映像や曲中にはこの事件の内容や作者であるcrystal-zさんの苦悩のストーリーに出てくる暗号が隠されているそうです。
お時間ある方はそこにも注目して聴いてみて下さい。
こういった不条理な現実を音楽に乗せて訴えられるのは、ある意味ヒップホップならではという感じがして物凄く胸に響きます。
平等と思っていた大学の試験で判明した「年齢差別」「女性差別」という衝撃のニュースから2年。時間が経つにつれすっかり頭からこの話が無くなっていた方も多いと思います。この屈辱が一刻も早くcrystal-zさんの胸から晴れる日が来ることを筆者は願ってます。
この動画の拡散に少しでも力になれればと思い、今回記事にさせていただきました。